嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「お、おはよ」

玄関に立ってる旭君に、私は笑顔を作りながら近付いた。

結局こんな気持ちの時でも旭君がめちゃくちゃかっこよく見えちゃうんだから、相当重症だ私。

「今日部活?」

ポケットに手を突っ込んだ旭君は、真夏の太陽を背に浴びてキラキラと光ってる。

あぁ、やっぱり好きだなぁ。私。

「ううん、違うよ」

家庭科部の活動、夏休みは殆どない。

「じゃあ暇な?」

「い、いや暇って訳じゃ…」

「どっか行くぞ」

「え…え!?」

「二十分後にまた来るわ」

「あ、旭君っ」

私の返事を聞くことなく、旭君はクルッと向きを変えて帰っていってしまった。

え、えぇ!?

どうしよう…どうすればいいの!?









「お、お待たせしました…」

「おー」

結局、嬉しいが勝ってしまった私。だって、旭君が誘ってくれるなんていつぶりか分からない位なんだもん。

家族ぐるみでバーベーキューとかは年二回位してるけど、二人で遊ぶことなんてほとんどないから。

お気に入りのワンピース、着てきちゃった…

「今日、どこ行くの?」

「海」

「海!?何にも用意してないよ!」

焦る私にも、旭君はどこ吹く風だ。

「泳いだりしねぇよ。いいから行くぞ」

「う、うん…」

旭君に言われるがまま、私は彼の後ろをポチポチとついていった。








電車で約一時間。着いたのは、昔私の家族と旭君の家族と何回か来たことのある小さな海だった。私は海に入って遊ぶより砂浜でお城を作ったり、波を少しパシャパシャ触ったりする方が好きで。

思いっきり海の中で遊びたい旭君とはよく喧嘩になってた気がする。その度に私は意地悪言われて泣かされたけど、旭君は最後にはいつも私のしたい遊びに付き合ってくれたんだよね。

「ほら」

旭君が大きなスポーツリュックからレジャーシートを出して敷いてくれる。

「え、旭君が持ってきたの!?」

「は?何驚いてんの?」

「い、いや…旭君そんなイメージないから」

「お前と海行くっつったら持たされたんだよ」

不本意って感じでぶつぶつ言いながら、他にもランチボックスや飲み物やタオルが次々と出てきた。

「凄いね…旭君」

「だから母さんだっつってんじゃん」

「アハハ」

「笑うな」

恥ずかしいのを誤魔化すように私を睨む旭君が凄く可愛く見えた。
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