嘘吐きな王子様は苦くて甘い
帰り道、やっぱりまだ旭君の目を見られないまま。

でもこのままじゃよくないから、精一杯話題を見つけて明るく努めた。

「で、でね?その時先生が…」

「なぁ」

「え!な、何?」

「何でこっち見ねぇの?」

旭君が、真っ直ぐに私を見つめてるのが分かる。それでも、私は視線を返せない。

「別に見てるよ」

「見てねぇ」

「見てるってば」

「ちゃんと見ろ」

「っ」

旭君が立ち止まって、私の手首を掴む。また大袈裟に反応してしまったけど、旭君は離そうとはしない。

「ひまり」

「あ、あの…」

「ひまり、俺見て」

「え…っと」

「ちゃんと俺見て」

「あ…」

上目遣いに彼を見れば、少しだけ眉間にシワを寄せた表情の旭君と目が合って。

それが恥ずかしさからきてるものなんだろうなって思ったら、更に恥ずかしくなってすぐに目を逸らした。

「…ひまり」

「ご、ごめんなさい。私…」

「嫌になった?」

「え?」

「俺のこと、嫌になった?」

呟くように言われて、私はようやく真っ直ぐ顔を上げる。それだけは違うってちゃんと証明したかった。







「そんなこと、絶対ないよ!私が旭君を嫌になることなんて絶対…っ」

「じゃあ、何で?朝からずっと変じゃん」

「そ、それは…あの…」

「何」

「は、恥ずかしくて…」

ゴニョゴニョと口にする私と、微かに目を見開く旭君。

「今まで、どうやって旭君と話してたのかも分かんない…」

「何だそれ」

「だ、だって私達もうただのお隣さんじゃないから。その…私は旭君の」

「彼女」

その言葉に、ボボッと一瞬で顔に火がついた気がした。

高校生にもなってこんな反応おかしいって分かってる。

だけど今までずっと、旭君は大好きな憧れの存在で。

大袈裟に言うと芸能人とかマンガの向こうのキャラみたいな、そんな感覚で。

昨日は気持ちが通じ合ったこと凄く嬉しかったけど、今はおこがましいような分不相応なそんな気分。

まさか旭君が私を、なんて考えたこともなかったから。

私と話してくれるのは、単に幼馴染でお隣さん。それだけの理由しかないと思ってて。

凄く嬉しいはずなのに、喜んで飛び込んでいけない。
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