ハルカカナタ
「カナタもラノベ読もうぜ!嫁探ししようぜ!」

「布教するな。あと、嫁とか言うな」

 博人と不毛な会話をしていると、ハルカ達が講堂に入って来るのが目に入った。綾も含めたそのグループはどう見てもカースト最上位に位置する。

 ハルカを見て、それから綾に視線を向けると丁度目が合って、洗練された微笑みを向けられた。意図せず僕と綾は数秒程見つめ合っていた。

 ハルカがそんな僕達を見ていた事に気付かずに。



 講義が終わり、前の方の席に座って居るハルカの所まで行って声を掛けた。

「学食行くか?」

 僕は名前も覚えていない女の子と話していたハルカが振り返り、少し考える素振りを見せる。

「ごめん、今日は一樹さんと会うから」

「え?」

「え?何?」

「だって5限まで間が開くから時間潰さなきゃって言ってただろ?」

「あ、えと、さっき一樹さんからメッセージ来たんだ。少し時間取れるから出張前に会おうって」

 取って付けた様な言い訳だと思ったが、僕にはそれを否定出来るだけの根拠はない。そもそも、ハルカが僕にそんな嘘をつく理由も思い当たらない。

「・・そっか。わかった」

「うん、じゃあ私行くね」

 ハルカは鞄を背負って出口に向かって行った。呼び止める理由も、術も持たない僕はただ見ている事しか出来なかった。

「博人」

 ちょうど横を通り過ぎ様としていた博人を呼び止める。

「学食行かないか?」

「明後日は高花流華《タカハナルカ》先生の【僕妹】の最新刊発売日だから無理!」

「いや、明後日なら関係ないだろ」

「何言ってんだ!初版本特典のノゾミちゃん等身大ポスターを手に入れる為には今から並ばないと!」

「お前が何言ってんだ。ナチュラルに頭おかしいぞ。大体、明日も明後日もお前授業あるだろ」

「カナタ!」

「何だよ?」

「大学の授業とノゾミちゃん等身大ポスターとどっちが大切かわかるだろ!男には何を犠牲にしても行かなきゃならない戦いがあるだろ!」

「あるかも知れないけど、間違い無く今ではないぞ。あと、根本的な優先度間違えてるからな」 

「ノゾミちゃーーん!!!!!」

 叫びながら走って行く博人は周りの女子から【ザンメン】な視線を贈られていた。




 仕方無く1人で学食に向かうと、半分程席が埋まっていた。

 半分とはいえ、そもそものキャパシティが大きい為、100人は居るだろう。一般にも開放されているので、チラホラ学生以外の姿も見える。

 元々学生向けである為、値段はリーズナブルで量もそこそこ、味も悪くない。その上、ちょっとお洒落なカフェ風の内装で、近隣のOL達も昼休みに姿を見せる。

 地域交流の為に最近では一般に開放されている学食も珍しくはないが、昼時の混雑が尋常じゃないレベルなので、もう少し学生の事も気に掛けて欲しいものだ。

 券売機で300円の日替わりランチを購入して、カウンターに持って行き積まれているトレイを1枚取ると、その上にご飯、味噌汁、サラダ、白身魚のフライといった具合に、食堂のおばちゃん達の手で手際良く乗せられて行く。

 あっという間に日替わりランチの完成だ。これで300円なのだから破格の値段である。

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