政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

ライトが落とされているうえ、適度に距離を保たれた隣のテーブルの様子はほとんど見えない。そもそもカップルでいれば、多少のいちゃつきも周りはスルーだろう。


「そんなに嫌がれると、なにげにショックなんだけど」
「嫌ってわけじゃ……」


嫌だったら頬にキスをされた時点で突き飛ばしているかもしれない。それ以前に、いくら農園を救うためとはいえ、理仁との結婚を前向きに考えようともしなかっただろう。


「じゃあ少しリラックスして体の力を抜こうか」


そう言われ、静かに息を吐き出すとともに体の強張りを解く。そうすると思いのほか、理仁の腕の中が心地いいと気づいた。ただ、心臓だけはどうにも鎮まらず、ドクンドクンと大きな音を立て続ける。

その音に集中していると、自分のものとはべつの鼓動をかすかに感じた。たぶん触れ合っている部分を伝って聞こえるのだろう。同様に早鐘を打つ理仁の鼓動だとわかり、余裕な振る舞いに見える彼も菜摘と同じように緊張しているのかと愛しく思えた。


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