政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

「――ごめんなさい」
「ひとつ質問が抜けてる」


ものすごく近い距離で理仁がいたずらっぽい目をして菜摘を見下ろす。


「え?」
「〝それとも私?〟ってやつ」


(……それとも私? ――や、やだ!)

理仁の言葉を頭の中で反芻した瞬間、顔も耳も熱くなり、みるみる真っ赤になっていくのを感じた。
上手な切り返しができず、もともとそんなのを考える余裕もなく、言葉を探してゆらゆらと目を泳がせる。
動揺しているのは丸わかりに違いない。そうわかっていてもどうにもできないのがもどかしい。


「冗談だよ」


堪えきれなくなって吹き出した理仁が菜摘の額に軽くキスをする。


「先に風呂に入ってくる」


頬をさらりと撫で、バスルームに向かっていく理仁の背中を見ながら、菜摘は大きく息を吐き出した。
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