政略結婚の甘い条件~お見合い婚のはずが、御曹司に溺愛を注がれました~

「あちらでまた腕を磨かれるんでしょうね」


戸田は、理仁との間にあった一件までは知らないため、グランプリを逃した悔しさが退社の原因だと思っているだろう。


「そうだな」


わざわざべつの理由まで明らかにする必要はない。


「それにしましても、社長のこの頃の顔色のよさといったらないですね。やはり新妻の存在というものは違うんでしょうか。しかし私も最初はファインベリー目当てだと思っておりましたが、社長も相当――」


そこまで調子よく話していた戸田は、理仁の静かな目を見てハッとしたように口を押さえた。べつに威圧的に見ていたわけではないが。


「あ、いえ、すみません。余計なことでしたね」


戸田がそう言いたくなるのは無理もないのかもしれない。理仁のデスクには菜摘と一緒に撮った写真が飾ってあり、まさに新婚を謳歌していると言っていいからだ。


「続けてくれて構わないけど?」


どうぞと言った具合に手をひらりと上に向ける。


「幸せそうでなによりです」


微笑みを浮かべ、戸田はかしこまって軽く頭を下げた。
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