紅に染まる〜Lies or truth〜
告白


「来たか」


組長の視線が池の向こうへ移り
その視線の先を追うと

小さな影が近づいてきた


「橙美、さん」


「あぁ、許してやって欲しい」


頭を下げる組長を視界の隅に入れながら
橋を渡ってきた橙美さんが目の前に立った


「姫ちゃん、ごめんなさいね」


橙美さんの小さな手が冷たくなっていて
包まれた私の手の体温を奪う


「頭を上げてください」


橙美さんも悪気があった訳ではない

それに

橙美さんは相槌を打っただけのこと


「姫ちゃん」


少し目が腫れた橙美さん
こんな悲しい顔をみたい訳じゃない


「泊まっていいですか?」


「もちろん」


途端に笑顔になる橙美さんにホッとする


「組長、ありがとうございました」


「あぁ」


丑三つ時を過ぎて
夜露に濡れる時刻になった

側に居たいのは溺愛の姫のはず

もう一度頭を下げると
‘じゃあな’と頭を撫でて
背中を向けた組長


「余程、姫ちゃんと一平が好きなのね」


小さくなって行く組長を見ながら
橙美さんが呟く

頑なに拒んだ私を説き解すのは
組長である立場の自分しか居ないと
考えての行動だろう


「自分で運転するなんてよっぽどよ?」


クスクスと笑う橙美さん

置かれた立場を想いながら
呼びに来た道端さんについて屋敷に入ると

橙美さんの部屋に布団が敷かれていた






















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