紅に染まる〜Lies or truth〜

運転席に深く腰掛けて
フロントガラスを見ていた兄が
こちらを向いた


「・・・っ!」


視線が交わった瞬間
頬に溢れた涙

穏やかな瞳と対照的に歪む口元


「・・・愛」


溢れる涙に胸が詰まって
手を伸ばすと指で涙のスジをなぞった

その手に兄の手が重なる


大きくて温かな兄の手


この手にどれ程支えられてきたか

この目にどれ程救われてきたか

私のこれまでの人生は
兄と共にあって

兄がいなければ
今の私は無いと言い切れるほど

兄の存在は大きい

兄の傷ついた顔を見たい訳じゃない

意地っ張りの自分を封印しながら
もう一度視線を合わせると
ゆっくり微笑んだ


それにつられるように
兄の口元が緩んだ



「愛がいれば何も要らない」


「うん」


「愛と一緒に居たい」


「うん」


「愛に俺だけを愛して欲しい」


「うん」


「愛に名前呼んで欲しい」


「うん」


「毎朝俺の腕の中で目覚めて欲しい」


「・・・」


「俺、カッコ悪いな」


「・・・」


「欲張りに歯止めがきかねぇ」
少し俯いた兄


「いいよ」


「え?」
見開いた目がこちらを探るように揺れる

「もっと欲張ってよ」


「い、いのか?」


「一平」


「ん」


「私は一平しかいらない」


「・・・愛」


「今までもこれからも」


「ん?」












「一平を愛してる」
















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