紅に染まる〜Lies or truth〜
溢れ出す想い



リビングのソファに腰を下ろせば
一平は隣に隙間なく座った


時計も無い広い空間は
音を立てるものが空気清浄機しかなくて

お互いの呼吸さえも手に取るように感じる


頭の中の色々を何から伝えれば良いか考えていると
先に静寂を破ったのは一平だった


「心配した、こんなに痩せるなんて」


少し震えて聞こえる声に胸が騒つく


「ごめん」


咄嗟に出た謝罪の言葉は何に対してなのか・・・


それでも


「・・・いや、いい」


一平はそこを責めたりはしない


「少し離れて考えたかったの」


まるで距離を取るような言い方に


「・・・っ」


息を飲む様子が見えた


「ごめん」


「・・・謝るな」


圧倒的に言葉数が足りないと分かるのに
頭の中の想いは口から出てきてはくれない


そればかりか


「一平のマンションへは行けない」


「・・・っ」


またひとつ誤解を招く言葉を選んでしまった



あの日
『愛を、自由にしてやりてぇ』と
抱きしめてくれた一平の想いごと
拒絶したかのようで
慌てて、またひとつ間違う



「ごめん」


謝りたい訳じゃない


「謝るな」


「違うの・・・」


頭の中がごちゃごちゃで
順序よく話が出来ないもどかしさに唇を噛む


「噛むな、傷がつくだろ」


どんな時でも優しいのは一平で


「うん」


「俺の所為で愛が苦しいなら・・・」


私が言い難いと判断したのか自ら身を引こうとする


「違うっ」


「違わねぇだろ」


「違うの」


頭を左右に振って否定するのに
一平は諦めたように薄く笑った





「愛、情けは期待を生むんだ
だから、決めたなら迷いなく切り捨てろ」














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