紅に染まる〜Lies or truth〜
紅に染まる



食事を終えると大谷親子に見送られながらエレベーターに乗り込んだ



「・・・?」



エレベーターの中に微かにグリーンの残り香がある



・・・早く



逸る気持ちがパネルに流れる矢印を見つめ
扉が開くと同時に駆け出していた


乱暴に玄関ドアを開けば
よく見知った靴があった


「一平」


廊下を小走りに進むと
リビングの扉を勢いよく開く


焦って探す視線の先に
バルコニーの手摺にもたれた
一平の姿が見えた



「一平」



裸足のままバルコニーへ飛び出した私を
両手を広げた一平が受け止めた



「愛っ」



一平の胸に顔を埋めながら
グリーンの香りに気持ちが落ち着くのを感じていた



「どうしたの?」



正式にニノ組の立ち上げまでは
大澤組で忙しくしている一平

特に今日は仕置きの後始末で手一杯のはず

嬉しくて抱きついた私を腕の中に収めたまま
頭の天辺に口付けた一平は

少し離れると首を傾けた



「・・・っ」



フワリと重ねられた唇に
胸が急に騒ぎだした



「愛を抱きしめたかった」



そう言って微笑む一平の胸にもう一度顔を埋めた



「どうした」



本当は今日の仕置きで
心が疲れていた


それを心配して来てくれた
一平の優しさが嬉しかった


一平は昔からそうだった
私に何かあれば迷いなく駆けつけてくれて

私が落ち着くまで根気よく付き合ってくれた


それが何年経っても心地良い


素直に甘えられるようになったのは
自分の気持ちと向き合えたお陰



「来てくれて嬉しい」



もう一度グリーンの匂いを吸い込むと顔を上げた



「お腹空いてない?」


「食べてきた」




じゃあと一平の手を引いて
ソファに座った



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