紅に染まる〜Lies or truth〜


「どうした、これ」


三人が倒れている様子を見ながら
近付いてきたのは兄


「見ての通りよ」


「派手にやったな」


「覚えてない」


頭に血が上ってブラックアウトした・・・なんて言えなくて曖昧に躱す

そこまで答えたところで
背後からふわりと抱きしめられた


「大したことじゃない、忘れろ」


おまじないのような兄の低い声が心地よくて
回された腕を握った


「愛!怪我してるじゃないかっ」


持ち上げられた右手を見ると
ベットリと血がついていた


「私のじゃない・・・たぶん」


痛みもなにもないから
相手のもののはず


「念のために診てもらうぞ」


そう言うと兄は颯を抱き上げた


その後ろを追いかけた

仕置部屋を出る直前に見た父は
正気を失っていた

玄関に並んだ組員達は
返り血を浴びた私を見て再度息を飲んだ


「愛様、お怪我を・・・」


声の主は
本家に住んでいた頃に
よく庭で遊んでくれた石田さん


「大丈夫よ、私のじゃない」


眉毛を下げた情けない顔を向けるから
少し笑顔を返した


「愛、行くぞ」


颯を後部座席に寝かせた兄に急かされて
助手席に乗り込むと
タイヤを鳴らしながら急発進した


「グェ・・・」


身体が崩れて呻く颯に振り返ると


「颯、少し我慢しろ」


鬼畜な声が隣から聞こえた













< 56 / 227 >

この作品をシェア

pagetop