紅に染まる〜Lies or truth〜
日常


兄の依頼を仕上げると寝室から続くクローゼットで着替えを済ませた


大きな鏡でスタイルをチェックするだけで少しため息


「完璧」


背中の中程まであるストレートの黒髪は、実は自慢だったりする

けれど、アンバランスな長めの前髪に、伊達眼鏡をかけると黒髪の艶が霞む

セーラー服の制服はスカートが膝下5センチのおばさん丈

中身はないけれど厚みのあるバッグを持つと

恐ろしく存在感の無い地味子完成

玄関のドアを開ける前に
携帯で時間を確認しながら電話をかけた


(おはようございます。愛様)

「今から降りる」

(かしこまりました)


制服のポケットに携帯を突っ込むと
深呼吸して扉を開けた


「おはようございます。愛様」


目の前で微笑むのは三崎潤《みさきじゅん》


「おはよ」


小学校に入学すると同時に私についた護衛だった

初めは家に寄り付かない兄のようで嬉しかったけれど

中学生になる頃には、常に着いてくる三崎が鬱陶しくなった

勿論、家業がバレると友達なんてすぐに離れたから

友達との時間を邪魔された訳ではなく

いつもは気配を消した三崎が
街で男の子に声をかけられようものなら
いつのまにか隣に立って牙を剥く


この要塞に越してきても同じ

何かにつけて一歩も二歩も先を行く三崎

玄関を出る前に電話したのに既に扉の前に居る


何のための電話なんだか・・・

そんなことを思いながら


斜め前を歩く三崎に先導され
最上階と一階下の付き人専用階のみを稼動するエレベーターに乗り込んだ

私の部屋の直ぐ下のフロアは
付き人とコックが住んでいて
何もできない私の命綱になっている

いつものようにダイニングへ入れば
テーブルの上には湯気の立つ朝ごはんが揃えられていた








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