紅に染まる〜Lies or truth〜


要塞に籠もって数ヶ月
同じ期間兄の顔を見ていない

状勢が動いたからには
そうも言っていられないのか

久しぶりにメールが届いた


返信するのも癪に障ると
子供丸出しの私は
颯に返事をさせた


「一平さん通していいか?」


「・・・うん」


ルーフバルコニーのソファに座ったまま
夕暮れに染まり行く景色を眺めていた


「疲れた」


ポツリと零した声は
澄んだ空が吸い取ってくれた

座ったまま背伸びをすると

凝り固まった身体の軋む音が聞こえた気がした


「愛」


背中で聞いた久しぶりの兄の声


「ご苦労だった」


となりに腰を下ろした兄は
遠慮がちに頭を撫でた


「どうなってる?」


聞きたいのは労いの言葉じゃない


「碧斗が愛に会いたいそうだ」


「そ」


「これから行けるか?」


「断れないのなら聞かないで」


「すまない・・・愛」


「いい、気にしてないから」



これだけ仕事をこなしながらも
大澤碧斗には会ったことがない

龍神会を束ねるに相応しい男かどうか
見極めたいと予々考えていた


・・・やっとだわ


ピッタリくっついて離れない兄に肩を抱かれながら
荷物持ちの颯を連れて大澤の本家へ

物々しい数の組員が並ぶ屋敷の中に入ると

兄の腕の中にいる私に
好奇の目が寄せられた


「一平、離れて!」


何度言っても聞く耳を持たない兄と
半ば諦め顔をした私の前に


「大澤碧斗だ」


冷たい空気を纏った鬼が姿を現した


「どうした一平?余裕無しか?」


そう言ってクスクス笑う碧斗


「可愛い妹を守って何が悪い」


堂々と恥ずかしいことを言う兄にため息を吐き出すと


「田嶋愛です」


分かりきった挨拶をした
くだらない時間だと思った瞬間


「いつもいつも・・・すまない」


目の前の鬼が深々と頭を下げた


「・・・っ」


予想の斜め上を行かれた
フッと笑ってソファに背中を戻した


・・・私の負け


17歳には考えつかない詫びを並べた鬼は

最後は蕩けるような笑顔を向けた


この鬼の為なら・・・
そんなことを思わせるに相応しい度量

一分でも隙を見せたら
大澤ごと潰してやろうと考えていた私を見透かすように


「龍神会には愛が必要だ」


そう言い切ると深々と頭を下げて
二ノ組を任せるとも付け加えた










大澤と同じく田嶋も代替わり・・・
全く心に響かない言葉を消化できず
兄と鬼の上機嫌の喋りをどこか遠くに聞いていた

































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