真夜中だけの、秘密のキス
「あ、あの、私……久木君に憧れてて」
情けなく声が震える。
「思い出に、一度だけ……抱きしめてください」
意を決して言い切ったあと、沈黙が下りた。
「ご、ごめんね、図々しくて」
椿の姫から気に入られるくらい魅力的な久木君が、私のことを抱きしめても、心がすり減ってしまうだけ。
誰が見ても美人な椿の姫とは、立場が違う。
「ダメだったらいいの。すぐに久木君のことは忘れるから……っ」
何を考えているのか読めない瞳で、久木君は私を見下ろしていた。
「──いいよ」
「えっ?」
「抱きしめてほしいんでしょ。……おいで」
軽く両手を広げた久木君は、私のことを受け入れてくれるみたいだ。
遠慮がちに、彼のそばへ体を寄せる。
初めは優しく。しだいに力強く、久木君が私を抱きしめた。
──それは私が、久木瑛翔という檻の中に囚われた瞬間だった。