真夜中だけの、秘密のキス
よく見ると、その人は桜庭先輩だった。
一つ上の学年で、綺麗、美しいという形容詞が似合う人。
過去に、先代の椿の姫から生徒会副会長に指名されたことがあるくらい有名な人だ。
久木君と張り合えるほどの容姿なのに。
どうして椿の姫は、この人を選ばなかったんだろう。
好みの問題?
それとも。一度選ばれた人は、選んではいけない決まりがあるのか。
そんな疑問を浮かべるくらい、魅力的なオーラを放つ人だった。
「君って、さっきの彼とよく一緒にいる子だよね」
なぜか桜庭先輩は、私たちのことを知っている様子。
「残念だったね、彼を取られて」
慈しむような瞳を向けられる。
その途端、私の目から涙がこぼれ始めた。
我慢していたものが、一気にあふれ出す。
「辛かったよね……。おいで、話を聞いてあげるから」
柔らかく私の手を包んだ先輩は、人混みの中から私を連れ出した。