黒王子の溺愛
見下ろす目は、また、あの冷たい目だ。
その目に晒されるのが耐えきれなくて、美桜は服で身体を隠す。

「君は…」
そう言って、柾樹は苦しそうに目を閉じる。

柾樹…さん…?

そして、振り切るように目を開けた。
「相手が俺じゃなくても、よかったんだろう。親のために身を捧げる…か。君は、誰にでも股を開く覚悟があったんだな。」
「違います…っ!」

けど、そんな美桜の言葉には聞く耳を貸してはもらえず、柾樹は、美桜にくるりと踵《きびす》を返した。

「君の部屋は奥から2番目の左側のドアだ。必要なものは揃えてある。なにかあれば、コンシェルジュへ。以上だ。」

必要なことだけを、柾樹は事務的に告げる。
背を向けて、立ち去る柾樹を、美桜は見送ることしか出来ず、その場に置き去りにされ、ぽろっと、こぼれた涙を美桜は止めることが出来なかった。
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