黒王子の溺愛
目を反らせた颯樹の視界に、ふと入った、美桜の手首の跡。

うっすらと、だが、拘束されたもののように見える。
よく見なければ分からないし、そこだけ見ただけでは分からない。

両手で手を握ったから、始めて分かったことだ。

「美桜ちゃん…コレ…なに…。」
急に青白い顔色になった颯樹が、美桜の手首を掴んだ。

「え…?」
まさか、跡になっているとは思わず、美桜も顔色が変わる。

手首の後ろを見たら、薄っすらと鬱血していた。
よく気づいた、と思うような。

「どういうこと?」
そう美桜に詰め寄る颯樹は、今までの、明るくて、軽い雰囲気を全く感じさせなかった。

「別に、痛いことはなにもされていません。」
慌てて、美桜はそう言う。

「じゃあ、柾兄がやったのは間違いないんだね。2人は上手くいっているんだと思っていたけど、違うの?」

美桜は、即、回答を返せない自分が辛い。

急に目を伏せた美桜を見て、颯樹は自分のポケットから携帯を取り出した。

「柾兄?俺、今、マンション。…はあ?いつものことでしょ…それより、どういうこと?聞きたいんだけど。…なにって…美桜ちゃんのことだよ。なにしてんのか分かってんの?って…切りやがった…。」

颯樹は、美桜に携帯をプラプラさせてみせる。
「順当に来ると、あそこの会社からは20分くらいだけどね、何分で飛んでくるだろうね。」
「颯樹さん…。」
< 39 / 86 >

この作品をシェア

pagetop