黒王子の溺愛
「お父様のことはきちんとする。だから安心してくれ。」
柾樹は目を伏せて、神妙な顔をしていた。

美桜が柾樹を見つめても、目も合わせてくれない。

──気持ちが通じた、と思ったのに…。

美桜はきゅっと、唇を噛んで、その後、口を開く。

「私と結婚するの、本当は、イヤなんですね…。だから、あんなことを…。」
美桜の泣きそうな震える声。
柾樹は目を見開いた。

「待ってくれ。君は渋々、政略結婚に承諾したんだろう。」
「え?違います。」
きょとん、として、美桜は返す。

「最初に父からお話があった時は、断ろうと思っていました。けれど、それがあなただと聞いて。あのパーティの時、あなたに一目惚れしたって思ってました。だから…。」

「俺は、今まで君を忘れたことはなかった。お父様にあんなことを言われて、他の奴に取られるくらいなら、と名乗りを上げたんだ。あの、パーティーの時、一目惚れした?…と思っていた…とは…」

「…っ、あの、…それは、確かにあの時、一目惚れなのは間違いないんですけど、正確には…あの…」

「美桜?」
美桜は赤くなって、涙ぐんでいる。

「初恋だったんです。あの時、池に入って、髪留めを探してくれた男の子が…。」
「それは……?」

美桜は真っ直ぐに柾樹を見た。
「柾樹さんは、…私の、初恋の人で、一目惚れのお相手なんです…。」

そう言って、美桜は柾樹に笑顔を向けた。
その花が咲いたような笑顔。

「美桜…」
堪えきれずに、柾樹は美桜を思い切り抱きしめる。

「愛してる。好きなんだ。俺と結婚してほしい。」
「もちろんです。」

美桜の目が、涙でいっぱいになったけれど、それは今までのようなものではなくて、とても、とても、幸せな涙だった。
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