翠玉の監察医 誰を愛したっていいじゃないか
ニ 高校生からの依頼
「心臓の血液量、右が……」

「胃に手術のあとがあります」

圭介が世界法医学研究所に研修に来て数日。蘭は変わらない日々を送っていた。いつものように出勤し、今日もご遺体を解剖する。今日は民間からの依頼だった。

「死因は老衰だね。事件性がなくてよかったよ」

解剖が終わり、ムーミンが描かれたマグカップでコーヒーを飲みながらマルティンが言う。その隣で蘭は頷き、「ご家族の方に連絡します」と言った。

「民間からの依頼なんて珍しいですね。日本の解剖率なんて先進国で最下位なのに」

そう言う圭介にアーサーが「それを変えていくのが俺たち世界法医学研究所の使命さ」と誇らしげに言う。ゼルダも頷いていた。

「解剖はご遺体を傷付ける行為じゃない、それをわかってもらいたいの。ね?蘭」

ゼルダに見つめられ、蘭の眉がピクリと一瞬動く。そして「はい」と蘭は無表情のまま頷いた。

「さて、今から解剖の報告書を書くとしますか!」
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