黙って俺に守られてろ~クールな彼は過剰な庇護欲を隠しきれない~
 明るい口調で言いながら、小さなポリ袋に入った白い結晶を見せる静香に、私は背筋が凍った。
 
 違法薬物や薬の乱用の危険性については、いやというほど教え込まれていた。
 
 それなのに、同じ薬学部の友人が覚せい剤に手を出したという事実は、言葉で言い表せないほどショックだった。
 

 薬の話をする彼女の表情は、まるで恋人のことを思い浮かべているかのように、うっとりとしていた。
 
 その微笑にぞっとする。
 
 薬に取りつかれた静香は、まるで別人のように見えた。
 

 思い悩んだ私は、どうにかして彼女を救いたくて麻薬取締事務所に相談した。
 
 そのとき担当した麻薬取締官が、伊尾さんだったのだ。
 
 それまで麻薬取締官といえば、ドキュメント番組やドラマのイメージしかなかった。
 
 怒号を上げ机を叩き容疑者を問い詰めるような、強面で少し暴力的な怖い人たち。
 
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