君は私の唯一の光
お母さんと話してから数日後。




洸夜くんの足は、グルグルの包帯から、ビブスだけに変わった。




「おー、これだいぶ歩きやすい。」




「だからって、羽目を外しすぎないように。」




「はーい。」





洸夜くんの表情は、ずっと晴れやか。いつも以上に。





「良かったね、洸夜くん。」




「おう!」




昼間から眩しい笑顔を振りまけられ、正直死にそう…。洸夜くんに対する想いに気づいてから、私はこの笑顔を見るたびに、少しだけ苦しくなっていた。






「そういえば、今日は花火大会の日だよ。洸夜くんと乃々花ちゃんも、この病室から眺められるから、楽しんで。」






洸夜くんの主治医の先生は、そう言うと笑顔で帰っていった。





「花火大会か………。」





小声で呟く。



毎年、盛大に行われる近くの神社の夏祭り兼花火大会。この病室から眺めたことはあるものの、実物をなんの(へだ)たりもなく見たことはなかった。




お兄ちゃんも、私に気を使って、外の話をしてくれた事は、ほとんどない。学校の事も、お祭りとかの事も。






「乃々花は、いつもここから見てたの?」





「うん。」





「へぇ。じゃあ、楽しみだな。ここ、花火打ち上げる場所から、そこまで遠くないから、ある程度の大きさで見られるはずなんだよ。」





洸夜くんは、花火大会にくわしそう。そういうお祭り騒ぎ、大好きっぽいし。




案の定、すぐに花火大会について話してくれた。





屋台の食べ物やゲーム、アクセサリー。
おじさん、おばさんが踊る盆踊り。
みんなが着る浴衣。





どれについても、やっぱり、私の興味はそそられて、洸夜くんに質問しまくった結果、少しずつ脱線(だっせん)しながらも、3時間くらい花火大会について話してしまった。





おかげで、さっきまで高く昇っていた太陽は、夕日へと変わりつつある時間になった。





「そろそろ、みんなが集まる時間だよ。屋台を開く人は、もっと早い時間から用意してるんだけどね。」




「そうなんだ。面白そう。」





「そりゃあ、すっごい騒ぎだよ。大声で話さないと会話出来ないし、迷子なんてしょっちゅう出るんだから。」





いつか行ってみたい。そう思ってしまった。でも、それも叶わぬ願い。私の病気は、一生治らないと言われているんだから。






夜、打ち上げられた大きな花火たち。一つ一つが、とても綺麗だった。でも、最終的に(はかな)く全てが消えた。





まるで私の命みたいだった。



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