君は私の唯一の光
「洸夜、退院おめでとう!」




洸夜くんの退院に駆けつけたのは、洸夜くんのご家族と私のお兄ちゃんだけだった。あれだけ皆んなから(した)われてる洸夜くんなら、学校のお友達も沢山来るんじゃないかって、思ってたから、ちょっとびっくり。





「息子がお世話になりました。」





洸夜くんのお母さんである葉月さんが、私とお兄ちゃんに言った。





「いえ、こちらこそ。洸夜くんのおかげで、今まで退屈だった毎日が、楽しかったので。」





「僕も、ときどき洸夜くんと男同士の話ができたので、良かったです。」





お兄ちゃんの言った“男同士の話”に一瞬疑問を抱いたけど、スルーしておいた。





「そんな風に言っていただけて、嬉しいです。」





どこまでも礼儀正しい葉月さんを、見習いたい。自分も生きてる間は、こんな女性になりたいと思う。






「翔くんと、乃々花さん。洸夜の父の日向(ひなた)です。これまで、1度もご挨拶できていなくて、すみません。1ヶ月間、ありがとうございました。」





神山家の人は、全員しっかりしてそう………将来的に。





そんなに、かしこまっていただく必要もないのにな……と思っていたら、お兄ちゃんが口を開いた。





「神山日向さんって、もしかして桑野グループの重役ですか?」






桑野グループは、我が家系が作ったグループ。そこの社長が、私のお父さん。





そこの重役ってことは、日向さんは、桑野グループとの関係が深いってこと……だよね?






「さすが、期待の次期社長。すぐにお気づきになられましたか。」




「いえ、グループの大黒柱(だいこくばしら)である重役の方々は、誰だって忘れませんよ。」






あー、お兄ちゃんは最近お父さんの仕事を手伝い始めたから、そういう事も知ってるのね。




っていうか、やっぱり世間は狭い…………。





洸夜くんは、今ただのギブスだけで、あと1週間くらいで完治するらしい。退院がよっぽど嬉しいのか、終始笑顔の洸夜くんに、少し悲しくなった。




でも、当然だよね。だって、私が洸夜くんに抱いてる感情と、洸夜くんが私に抱いてる感情は、絶対一緒じゃない。このまま私が1人で抱えてた方が、洸夜くんも気楽だろう。





「乃々花ちゃん、洸夜の事いろいろありがとね。あと、翔の事、だいぶ驚かせちゃって、ごめん!」





「いえいえ、夕菜さん。全然気にしないでください。私は、いろんなお話ができて、すっごく楽しかったです。」





夕菜さんからも、お礼の言葉をいただいてしまって、申し訳ない。私の方が、もらったものは、とてつもなく大きいのに。





「ののかおねーちゃん、これあげる!」




陽菜ちゃんが大きな声で言って差し出したのは、折り紙で作られた“なにか”。




「これ、くれるの?」





「うん!陽菜も、茶色のワンちゃん持ってるの。ののかおねーちゃんは、白のワンちゃん!」





「………ありがとう。」





とても、犬には見えないけど、陽菜ちゃんが一生懸命に作ってくれたのが(うかが)えた。こんなに、心温まる物をもらったのは、記憶にある限り初めて。




全てがどうでも良くなっていたあの頃の凍った心が、1ヶ月前のあの日……洸夜くんが入院してきたあの時から、徐々に、溶けていっていたんだ。それを今、再確認した。陽菜ちゃんのプレゼントのおかげで。





「ありがと、陽菜ちゃん。ずーっと、大切にするね。」





「うん!どーいたしましてっ!」





純粋な輝かしい笑顔が、さらに、私の心を軽くする。そんな“光”を見るのも、今日でおしまい。『今までありがとう』の気持ちを込めて、みんなに微笑んだ。










こうして、洸夜くん一家は家に帰った。




これからは、また1人。だけど、それも、もう大丈夫。洸夜くん達にもらった勇気で、私は頑張る。





洸夜くん、さよなら。
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