君は私の唯一の光
顧問の教員に呼び出された翌日————



松原がいつもより沈んでいた。声をかけようとしたが、やめておいた。

理由は、昨日の夜泣きながら走っていくのを見たから。腕で目を押さえていたが、サッカーのおかげで動体視力がいい俺には、バッチリ見えた。自分で言うのもあれだけど。



だから、軽い感じで声はかけられないと思った。泣くほどの事があったんなら、そっとしておいてあげた方がいい事もあるだろうし。




そのまま、乃々花の待っている病室に行く。昨日は行けなかったから………だいぶ寂しかった。俺ってこんな人間だったっけ?



楽しみ過ぎて、病室に着くまで院内でも走ってしまいそうだった。走ったら怒られるから、しなかったけど。





気分が高揚してるなか、思いっきり乃々花の病室の扉を開く。


そこには、なぜか思い詰めたような顔をした乃々花が。



どっか、また痛くなってんのか?とも思ったけど………病室に(ただよ)う重苦しい空気に、違和感を覚えた。



なぜか………乃々花がいる場所なのに、ここにいたくないって思ってしまう。嫌な予感が胸を占めた。


でも、気のせいだと解釈して、乃々花にいつものように話しかける。




「乃々花、昨日来れなくてごめん!ちょっと部活の引き継ぎの話があってさ。昨日は、体調悪くならなかった……?」



「………うん。大丈夫だったよ。」



「そ……そっか。」




乃々花の重い雰囲気からして、今日は楽しく話せそうにない。だからといって、ここで帰るのも嫌なんだけど………。


微妙な沈黙が室内に漂う中、やっと乃々花が口を開いた。




「洸夜くん……」



「ん?」



いつもの声に名前を呼ばれてホッとする。なのに、乃々花の瞳には強い決意が浮かんでいた。さっきより、嫌な予感が強まった。




「私と別れて下さい。」



「え……………?」




俺の口からは、間抜けな声しか溢れない。


奈落(ならく)の底に叩き落とされた感覚。


なんで………だよ。一昨日まで、あんなに俺といる時笑ってくれてたのに。それも、最初っから嘘だったのか?





「理由……聞いてもいいか?」




とにかく、俺のどこが悪かったのか聞かないといけない。それを改善して、もう一度乃々花と付き合えるように頑張るから………。見苦しいかもしれないけど、仕方がない。



だって、乃々花以上に好きになれる人なんて、この先現れないから。




「理由は………重荷(おもに)になりたくないから。」




“重荷”って俺の?そんなの、ならないってこの前言ったばっかりだろ……?急になんで………。




「俺の重荷になんかならないって、この前も言ったじゃん。乃々花と付き合えるだけで、俺は嬉しいんだって。」




乃々花の小さな手を握って、しっかり俺の想いが伝わるように言う。


なのに、乃々花は首を横に振った。




「私が洸夜くんと付き合うと……洸夜くんの迷惑になっちゃう。」




さっきまでの力強い瞳から一転。瞳に涙を溜め、弱々しく声を震わせながら、乃々花が言った。


何が乃々花を“別れる”方向に向かせたのかわからない。ただ、自分を傷つけるのだけは、やめてほしい。




「乃々花、ちゃんと話して?俺は、乃々花が考えてる事、ちゃんと知りたい。全部はわかってあげられないかもしれないけど、乃々花の負担を少しでも楽にしたい。だから……包み隠さず、教えて?」




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