君は私の唯一の光
「乃々花………」



一言に覚悟が感じられた。本気だって、伝わった。


だったら俺は、応援して、乃々花が怖い時には側にいる。絶対離れない……それだけだ。




「頑張れ。」



「うん………。」




乃々花の小さい手に自分の手を重ねる。俺がついてるって、しっかり伝わるように。




「乃々花……今、別れたいって思ってる?」



乃々花は、小さく首を横に振った。




「もともと、別れたいなんて思ってないよ……。でも、私のせいで洸夜くんが傷ついちゃったり、迷惑かけちゃったりするなら、別れなきゃって思ったの。」



「なんで、俺がそうなるって思った?」



「………。」




乃々花は、視線を彷徨(さまよ)わせる。言うべきか悩んでるんだろう。




「乃々花、はっきりと教えて。でないと俺、何もわかってあげられないんだよ。」




「———っ……。」



乃々花が、はっとしたような顔を見せた。そのあと、俺を見て、再び瞳を潤ませた。




「昨日、松原さんが病室に来た時に聞いたんだ。中学生の時の事。」




松原、昨日来てたのか?


松原は、中学の頃友達関係でうまくいってなかった。でも、それをなんで乃々花に?



「松原さん泣いてた。お父さんが亡くなって、すごく辛かったって。そんな想いを、大切な洸夜くんにさせたくないって。」



え………?お父さん?

松原の父さんが亡くなったって話、聞いたことない。てか、松原の父さんは俺が高校に上がるときは健在だったし。高校の入学式で会ったから、少なくとも“中学”は変だろ?




「私、松原さんの言う通りだって思ったの。手術しても、成功する可能性はすごく低いし、しなくても、5年後にはここにいないんだから、付き合ってたらすごく悲しませちゃう。だから……」



再び乃々花の瞳から、涙が止めどなく溢れ出した。もう、松原の事は置いておこう。今は、乃々花を慰めたい。ここまで1人で背負わせてきてしまった乃々花を。



「乃々花………」



ギュッと抱きしめ、背中を(さす)った。



「もう、1人で抱え込むなよ。これから先も嫌なことがあったら、絶対俺に言って。乃々花を、ずっと支えるから………。」



ついに、声を上げて泣き出した乃々花。俺の制服をギュッと掴んでる。俺も、優しく、でもしっかり乃々花を抱きしめる。


絶対離さないから、ずっと俺の側にいろよ。





「大丈夫か?」




ある程度、乃々花が落ち着いたようなので、聞いてみた。



小さく頷く。




「うん……ありがと。洸夜くん。」



泣いたせいで、目と頬が赤い。なんか………すげー可愛い。



「乃々花。」


「ん?」



「…………。」




そっと乃々花の唇に、俺の唇で触れる。初めての感覚。柔らかくて、心地いい。


離して、乃々花の顔を見ると、ポカンてしてる。


…………もしかして、キスを知らないとか?

いや、いくら乃々花でも、知ってるだろ!?



「乃々花…………?」



「今のって……キス…?」



「……うん。いや……だった?」




失敗したかも………。乃々花に嫌われたらどうすればいいんだよ!


内心焦りつつも、乃々花を見ると、もともと赤かった頬を、さらに濃く染めていた。




「ううん、嫌じゃないよ……。びっくりしたけど。」




少し恥ずかしそうにする乃々花が、とてつもなく愛おしい。


なんか、悪戯心が出てきた。



「乃々花、もう一回。」



「へ?」



俺が言ったことの意味がわからず、顔を上げた乃々花に、すぐにキスをする。

今度は、さっきよりも長く。



離した時には、乃々花はこれ以上ないくらいに顔を赤くしてる。



「なんで真っ赤になんてんの?」


「…………恥ずかしいから…。」



上目遣いで睨んでくるけど、全く怖くない。むしろ、可愛いんですけど。
< 48 / 97 >

この作品をシェア

pagetop