君は私の唯一の光
【said 寧々】


「これ、どこ持ってくの?」


「大道具係のとこ!」


「了解。」



年に一度の文化祭が、11月26日にある。残り1ヶ月しかないこの時期、放課後の校内は大荒れだ。



私のクラスでは、演劇と執事&メイド喫茶をする。


演劇の内容は、『白雪姫』。王道だよね。


王子様は、もちろん洸夜。立候補ではなく、ほぼ強制。で、白雪姫は、かわいいと評判の宮本花梨………ではなく、私になった。


理由は、洸夜の指名。あんな事があったのに、私をペアにするなんてどうかしてる。なのに、洸夜に理由を聞いたら、“松原なら、誰よりも頼れるから!演技、下手だったらフォローよろしく!”と……。まぁ、それだけ信用されてるって事だから、いいんだけど。



ちなみに、花梨は継母(ままはは)。決まった瞬間、ちょっと笑っちゃった。


お互い、仲直りした翌日からは、本当に普通の関係になれた。今まで通りの、干渉しすぎない、丁度いい関係。私も、キッパリ吹っ切ったから、今までよりも、“友達”って感じが強い。



「なぁなぁ松原。ここのセリフって、どんな感じだ?」



「そこは、姫を愛おしく思うって、監督の北野が言ってたじゃん。」



「あー、そうだった。」



我がクラスには、小説家として活動している“北野”っていう奴がいるもので……展開やセリフも、だいぶオーバーで、正直恥ずかしい。



「愛おしく……か。むっず。」



まぁ、そりゃそうだ。たいして好きでもない奴に、できるわけがない。



「……じゃあ、私のこと、桑野さんだと思えば?」



桑野さんなら、“好き”とか“愛してる”とかっていう感情、生まれるでしょ?





「おー!ナイスアイデア!」





ったく……手間のかかる奴。



それより、桑野さん……手術、大丈夫かな?

なんて、私が傷つけた相手に何を思ってんだ。でも、やっぱり今の洸夜がいなくなるのは、寂しい。友達として。



結局のところ、私は偽善者なんだが。



最近、洸夜はみんなが帰る時間まで、学校に残ってる。初めの頃は、特になんとも思ってなかったが、ここ1週間程、早めに帰る日がない。何を考えてるんだ、コイツ。

洸夜から、11月4日が手術だって聞いた。あと、3日。


なのに、遅くまでここにいてもいいのか。洸夜は、さっさと桑野さんのお見舞いに行くべきなのに。……これからどうなってしまうのか、なんて誰にもわからないんだから。



「洸夜、桑野さんのお見舞い、いいの?」



「いいって、何が?」



「……行かなくていいの?」




ピタっと動きが止まった。表情も、一瞬で曇って、“やっぱり行きたいんじゃん”って、内心呆れる。文化祭なんて、放っておいても、勝手にスタートするんだし。文化祭が桑野さんよりも大事!なんてことも、ないでしょ。




「行きたいよ。」



俯きながら、細々と言われた声は、かろうじて私の耳に届いた。



「でもっ、乃々花が無理して笑ってるのを見ると、辛いんだよ。」



はぁ、何言ってんだか、コイツ。こんなだったっけ?



「無理してるのを辞めさせるのが、彼氏の仕事なんじゃない?」



桑野さんは、1人で思い詰めるタイプだって、洸夜が言ったんじゃん。だから、俺が側で肩の荷をおろさないとって。



「ばーか。早く、行ってあげなよ。桑野さん、1人で苦しんでるでしょ?」



あんたが行かなかったら、誰が行くんだよ。ほんと、大事なとこで気づかない。



「っ……。行ってくる。」



全力疾走で、教室を飛び出していった。窓に目を向けると、もう校門のすぐ側。



「はっや。」



ここ、3階だよ。どんだけ全力なの。やっぱり、あいつはバカだ。



「ねぇ、神山帰っちゃったけど、なんで?」



「んー、彼女さんのピンチを救うため、かな。」



洸夜、絶対後悔しないでよね。



絶対、桑野さんと、幸せになってね。



まだ高校生。大人から見たら、バカにされるかもしれない。たかが高校生の恋愛に、将来だの、結婚だの、あるはずがないって。



でも、それくらいあの2人はお似合いで……幸せそうなんだよ。



頑張れ、洸夜、桑野さん。




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