君は私の唯一の光
【said 翔】



全く、落ち着かない。



乃々の手術が、心配でしかない。



深谷先生に聞いても、助かる可能性の方が低いって言われた。成功しても、後遺症が残る事もあるって。



なんで、乃々なんだよ。俺だったらよかった。そしたら、乃々は普通の人生を送れてたんだ。



11年前のあの日。乃々が目の前で腹を抱えて倒れた、あの日。俺は、何もできなかった。学校なんかがあったせいで、乃々のお見舞いにもなかなか行けなかった。


小さい頃の俺は、何がなんだかわからないまま、乃々が家に帰ってこないことを不思議に思うだけだった。小学5年で、乃々の実情を聞いて泣いた。


乃々の心がどんどん閉ざされていくのも、黙って見ることしかできなかった。止められなかった。完全に閉ざされた心の開け方は、全くわからず、日々、壁を厚くしていった。



苦しい。悔しい。情けない。



乃々の病室に入る勇気が、なかなか持てなかった。俺がいたところで、現状は何も変わらないんじゃないか。乃々のための努力は、全て水の泡になるんじゃないか。



そんなことを、現状を変える努力もせず、つらつらと考え、行動することを諦めた。


俺ができたのは、眠っている乃々に、目覚めるよう祈ることくらいだ。

乃々が起きたら、何を話したらいいのかわからず、学校や仕事を理由に逃げた。



そんな弱すぎる自分が、嫌で嫌で仕方がなかった。でも、そんな自分を変えることもできなかった。





そんな絶望感を味わっていた時、洸夜くんが現れたんだ。




彼は、たったの1日で、乃々の鉄のような心を、4歳の時に持っていたような、明るいものに戻した。俺が、どんなに頑張ろうと思ってもできなかったことを、ほぼ無意識のうちにしてしまった。



俺がもし、彼と乃々が同室になることを拒んでいたら……そう思うと、たまらなく怖い。俺が、乃々の生きる道を塞いだも同然だ。



そんなことにならなくて、本当に良かった。心からそう思う。



あの2人が互いに想い合ってることも、特に報告はないが、気づいた。元々、勘はいい方だから。



正直、お似合いだと思う。妹の恋愛に、口出しする兄……なんて、ただの鬱陶しい奴なんだろうけど。



彼は、乃々に沢山のものを与えてくれた。それは、乃々がずっと持てていなかった、目に見えないけど大切なものたち。


それだけじゃない。彼は、俺たち家族に、“明るく素直な、昔の乃々”をくれた。変わってしまった乃々を元に戻して、俺らに見せてくれた。俺らに、希望をくれた。乃々は、このままでも生きる道を歩んでくれるんじゃないか……っていう希望を。



まさか、“このまま”じゃなくて、長年拒んでいた“手術”になるとは、思いもしなかったけど。



彼は、乃々にとって必要不可欠だ。



今はそう、素直に思える。あの時、俺は、判断を誤らなくて、よかった。



洸夜くん、君は、乃々にとっても、俺ら家族にとっても、“救世主”そのものだ。




乃々の運命を変えてくれて、ありがとう。
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