身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
『だって、自分に自信がないときは口に出さないんでしょう? 先輩は』

やっぱり酔っていたのかもしれない。憧れの先輩との再会に舞い上がっていたのかもしれない。顔と顔が思いの外近いと気づいたのは、修二が真顔になった瞬間だった。
ふ、とかすめるように唇が重なった。
すぐに離れた唇。驚いたのは私だけじゃなく、キスをしてきた修二の方もだった。

『ごめん……』

修二は謝り、私は反射的にできる限り距離を取った。修二と距離を取りたいというより、私自身の近づき過ぎを反省したのだ。心臓が爆発しそうだ。

『誰とでもすると思うなよ』

うつむいていた修二はちらりとこちらを見て、髪の毛をかきあげる。

『いや、そもそも駄目だよな。気になってた子と再会した日にこんなことしたら』

気になってた? それは私のことだろうか。
私たちキスをしたのだ。挨拶みたいに軽いけど、私達の間柄では絶対にしないキス。
胸が熱く苦しい。鼓動が早い。

『和谷先輩……私、あの』
『もう一回会ってくれる?』

修二は頬を赤らめて言った。その目は本気で私を射貫いている。
混乱しながら、私は思った。大学時代に曖昧にした気持ちを昇華させる時が来たのかもしれない。

『もう一回と言わず……何度でも』
『平坂』
『私も和谷先輩のこと、ずっと気になっていたので……。まずはお互い、もう少し知り合いませんか?』

修二の驚いた顔。私の赤い顔。私たちは唇をむずむずさせて、次の瞬間、お互いに照れたように微笑み合った。

『うん、俺はそうしたいな』



私たちは何度もデートを重ねた。大学時代にできなかった“ふたりきり”を満喫した。
正式に付き合うことになったのはそれからふた月後のこと。
私は修二との未来を固く信じて疑わなかった。


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