ズルくてもいいから抱きしめて。
その後のことは、呆然としていたのでボヤッとしか覚えていない。

家族を呼ぶように言われたので、両親と師匠の高木さんに連絡を入れた。

姫乃には、「しばらく撮影で遠方に行く。」とだけメッセージを入れた。

3人とも急いで病院に駆け付けてくれて、医者から俺の体の状態について説明を受けた。

腰を強く打ち付けたことが原因で“脊髄損傷”と診断され、この日から俺は車椅子での生活が始まった。

姫乃には、落ち着いたら連絡を入れようと思いながら、日に日に今の自分の状態に絶望した。

姫乃は優しいから、こんな俺を支えようとしてくれるだろう。

でも、そうやって姫乃を縛り付けてしまって良いのだろうか?

車椅子になった俺が、姫乃を幸せにしてやることなんて到底無理な話だ。

これから社会人になったら、俺なんかよりもっと素敵な男と出会うだろう。

姫乃にとって俺は、ただの足枷にしかならない。

彼女の足枷になるぐらいなら、自分から離れるべきだろう。

今の俺の姿を見てしまったら、姫乃はきっと納得しない。

それなら、何も言わず目の前から消えることを俺は選んだ。

恨まれてもいい。

それが、お互いにとって最善だと思った。
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