2番手の俺がキミのヒーローになる物語
「あ〜蓮都くんだぁ〜」
聞こえてきたのは気が抜けそうになる柔らかい声。その声がした方を見るとワンピースを着て駆け寄ってくる女の子がいた。
「あー、えーっと...由香...だっけ?」
「そうだよぉ〜私由香〜」
前に屋上で一度話した由香がにこやかに笑いながら隣に立つ。
「なにしてるのぉ?」
「香坂さんが写真撮ってる所を見てたんだ」
隣にいる香坂さんを目で見ながら由香に伝える。
「写真〜?」
「えっと、うん。こんな感じ...」
香坂さんがカメラの中にある撮った写真を由香に見せる。
「わぁ〜スゴい!綺麗だね〜」
「えへへ、ありがとう」
「香坂さんだっけ?」
「うん。香坂紫乃です。よろしくね」
「私花咲由香〜よろしくね〜」
急に現れた由香に緊張していた香坂さんだったが、由香のふわふわした雰囲気に安心したように笑顔で話し始めた。
「由香は何してたんだ?散歩か?」
「ううん〜駅前のお花屋さんに行くの〜」
「駅ってここから40分くらい歩くよな?向こうの通りにある花屋じゃダメなのか?」
俺はこの広場から出て真っ直ぐ歩いた所に花屋があることを思い出し、由香に伝える。
「あれ〜?家から一番近いのが駅前のお花屋さんだからそこ行こうと思ってたんだけどなぁ」
俺と香坂さんの頭にはてなが浮かぶ。家から一番近い駅前にある花屋を目指していたのに何故駅から遠いここにいるんだ?
「由香の家は駅に近いのか?」
「うん〜。駅から5分くらいで着くよ」
「...えーと、花屋に向かってたのに何で今由香はここにいるんだ?」
「え〜?分かんない」
そこで俺は下駄箱に行こうとして屋上に来てしまっていたという由香との衝撃の出会いを思い出した。
「もしかして迷ってここに辿り着いたのか?」
「あはは〜」
由香はのほほんとした顔で笑う。俺は呆れ顔、香坂さんは困ったような顔をしていた。
「由香ちゃんって最近引っ越してきたとかじゃない...よね?」
「うん〜。生まれてからずっとここに住んでるよ〜」
「どうしようもない方向音痴ってことだな」
「花屋さんまで私ついていこうか?」
「本当〜?紫乃ちゃん優しいねぇ〜ありがとう」
結局不安な為俺もついていくことになった。由香の家の近くの方が良いと思い、俺たち3人は駅前の花屋まで行くことにした。
並んで歩く中でいつもなら由香は誰かと一緒に出掛けていたが、友達は塾で母親は仕事の為一緒に行く人が居なかった。そのため一人で出掛けたらしい。
「俺、由香が無人島に着いちゃったって言っても信じられる気がするよ」
「え〜?大丈夫だよ〜」
「スマホの地図とか見てもダメなの?」
「どっちに歩いたら地図の上の方に行くのか分かんないんだぁ」
「んー、やっぱもう一人で出掛けない方が良さそうだね」
やはりそれが一番だろうと俺と香坂さんは思った。当の由香は方向音痴なことを気楽に受け止めているらしくいつか行方不明にでもなってしまうのではないかと不安な気持ちでいっぱいになった。
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