【激短編】ガラスの中の青
一応、順風満帆に事は運んでいるものの、いつどうなるか解らないからと、贅沢もせず、普通の生活を望む彼女のしおらしさが、俺は堪らなく好きだった。


もしかしたら、そのしおらしさも彼女の計算かも知れないが、そんな演技にならいくらでも騙されていいと、付き合い出して8年近く経つのに思えるなんて、逆に重症なのかもな…と、時々思う事もある。


それに、儲かれば儲かる程、税金に奪われていく金額を見れば、俺自身、贅沢する気も失せていた。


いや、むしろお互いに夢の中にいる現在が現実である事を確かめるために今日みたいにコンビニに行き、安い酒を買い、わざとハシャイで見せるのかも知れない。


俺は彼女を抱く腕に力を込めた。



「どうしたの…?」



彼女の不安そうな瞳が、俺の顔を覗く。



「本も、俺とお前の事もみんな現実になっていく。」



確かめる様に、俺が呟く。



「それは、幸せだね。」



俺の小さな不安の火が少しでも大きくなるのを防ぐ様に、彼女は精一杯の笑顔を向けた。



「あぁ。だから、これ以上の、夢は見ないのかな…?」



俺は嘲笑気味な苦笑を漏らす。



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