シニアトポスト
つぶれた喫茶店は復活しない。
食べたかったオムライスはもうない。
喫茶店の経営者は死んだ。
春野千颯は、もういない。
全部事実だ。俺の前に突き付けられた、悲しい事実。
あの時、子供を助けなかったら、春野は生きていた。
藍ちゃんが泣くことも、一人になることもなかった。
おまえが今も生きていたら、お互い社会人になった今でも、きっと時々顔を合わせて近況を報告し合っていたかもしれない。
「藍がかわいすぎてこまるんだよ」って、聞いてもいないのろけ話を延々と聞かされるのも悪くないなって思っていた。2人の未来をもっと見ていたかった。
───おまえが生きてたら、
なんて、もしも話を募らせたって仕方がない。
おまえが死んでも、世界は止まることを知らない。
春野がいない世界を、俺はこれからも生きていかなくちゃならない。
おまえが生きていても死んでいても、世界は平等で、残酷だ。
「加賀野さん。オムライスなら駅の中にふわとろオムライスの店ありますよ」
「よく知ってんなおまえも」
「加賀野さんのおごりで行きたい店ならめっちゃあります」
「クソだな」
「そう言わずに。休憩終わりますよ」
「…ったく、都合いいな」
「かわいい後輩じゃないっすか。優しくしてください」
「よく言えたもんだな」
俺が死んだとき、またお前と笑い合えたらいい。
その時が来るまで───天国で、気長に待っててくれよ。