ブラインドネス・シンドローム
3.







助けてくれた男性の言う通り、長い距離を歩く事無く辿り着いたという彼の診療所に着いた。

鍵を開けて中へと誘導され、ゆっくりと椅子に座るように促してくれた。

ここがどこかはイマイチ分かってはいないが、微かに香る匂いが金木犀の香りで妙に落ち着く空間であるのは間違いない。

ギシッと私の向かいに腰掛けたのか、椅子の小さな悲鳴が聞こえたかと思うとゆっくりと彼の声が耳に届く。


「ここが僕の診療所。どう?少しは落ち着けたかな」

「はい。ありがとうございます」

「あと診療所の中の僕は一人の医師として、あなたに接する。少々砕けた言葉使いになることを許して欲しい」

「あ、全然大丈夫です」

「堅苦しい状態だと話せる空間が作れないからね。楽にしてて大丈夫だから、これからいくつか問診するから正直に答えて欲しい」


問診という言葉に本当にこの人は医師で、ここは診療所ということを信じさせる。

こんな不用心にのこのこと見知らぬ男性に着いていくような落ちぶれた人間にだけはなりたくないと、そう思う自分がいるせいかまだ半分彼のことを疑ってしまうのだ。

私がこう思うのも無理はないと思うが、助けてくれた人にそんな感情を抱くのは流石に失礼極まりない。


「じゃあまず、名前と歳を教えてくれる?」

「早山 千鶴(サヤマ チヅル)です、25歳です」

「素敵な名前だね。ご職業は?」

「OLです」

「ありがとう。じゃあ、具体的な内容聞いていくね」


簡単な自己紹介のような質問が終わり、先生は慣れた様子で私に質問を投げかけてくる。





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