君は桜色。
咲菜の父親が、僕の母親を殺したのだ。

初めは、信じられなかった。

ひと月ほど時が過ぎて段々と
冷静さを取り戻した頃に僕はそれを
自分の父親から知らされた。

僕の母親は咲菜の父親と不倫していた。
そして咲菜の父親が狂おしいほど
僕の母親を好きになり、挙げ句の果てに
自分のものにしようと考えたのだ。

思春期の僕にとってそれはとてつもなく
大きなショックで、1年近く
家から1歩も出られなくなった。

そんなとき、咲菜の母親が
我が家を訪ねてきたのだ。

親子で身構えたが、彼女が語ったのは
予想と全く違う話だった。

咲菜が記憶を失くした、と。

咲菜はあの日にショックで熱を出し、
病院に運ばれたのだ。

生死の淵をさまよっていたが
今は安定しているそうでほっと
胸を撫で下ろしたが、
記憶を失くすという言葉の意味を
僕は思いの外甘く見ていたようだった。
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