ブエノスアイレスに咲く花

「胡散臭かったな」

「僕はライターだけでよかったんだけど」

「ロマンチストのおまえにちょうどいい話だろ」

相沢と僕の話を聞いていた奈津美が
「おそろい、おそろい」と呟く。

駅に着くと相沢は、
「俺、地下鉄、アディオス」と言って
さっさと帰路についていった。

奈津美は「私も地下鉄なのにな」と言い、
僕に明日の昼は学食でとるか尋ねた。

僕が「たぶん」と答えると

「じゃあね」言いながら
白い合皮のバッグから取り出した
イヤホンの肩方だけをつけ階段を下りた。

僕は慌てて思い出し、
奈津美の肩をたたいて拾っておいた
【紙ナプキン製バレリーナ】を渡した。


すると奈津美は、
僕が今日出会ってから一番、
かわいらしい表情をした。

僕は「昼は相沢と学食にいるよ」
と言って手を振った。
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