婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 はい、と答えた紅の肩を宗介は優しく抱き寄せた。

 くすぐったいけれど、あったかくて落ち着く。いつの間にか、彼の隣は紅にとって特等席になっていた。

「そのワンピース、ウェディングドレスみたい」
「そう? 本物はもっと真っ白なんじゃないかな?」

 今夜のワンピースは白というよりはクリーム色に近い色味だ。だが、男性からしたらその違いはほとんどわからないかも知れない。繊細なレースの装飾は、たしかにウエディングドレスを連想させる。

「本物のドレス姿も楽しみだな」
「あ。私、結婚式は白無垢を着てみたいってずっと憧れてて……ダメかな?」

 紅はドレスより和装が好きだ。それに似合うのも、きっと和装のほうだ。

「いいね、絶対似合う。でも俺はドレス姿も見たいから、両方着てよ。あ、色打掛もみたいからそれも追加で」
「え〜そんなにお色直ししてたら、披露宴に半分も出られなくなるよ」
「そしたら披露宴の時間を長くすればいい」
「お客様に呆れられちゃうよ」

 ふたりでクスクスと笑いあう。甘くて幸せな時間だった。

「ま。とりあえず……初夜の予行練習、しとこうか」

 扇情的な笑みを浮かべて、彼は言う。
 長い指がゆっくりとワンピースのファスナーをおろしていく。背中にあたる空気はひやりと冷たく、ほてった身体には心地よく感じられた。




 

 




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