婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 学生時代に宗介が一番初めにスタートした事業、今でも会社の根幹にあるのがレシピ動画アプリだった。
 手軽に作れる家庭料理ではなく、手間も金もかかるプロの味を集めた高級志向のレシピばかりを集めた。公開する動画に、著名な料理人や有名レストランを登場させたことも話題を集めた。
 モデルやタレント、感度の高いインフルエンサー達から人気に火がつき、今ではほとんどの女性が一度は使ったことがある人気アプリとなった。

 そのアプリを全面リニューアルすることが決まり、そのキャンペーンモデルに選ばれたのが立花モモだった。
 今回のリニューアルは男性への訴求を第一目的にしているから、男性人気の高い彼女はうってつけだろう。

「そういえば〜桂木社長ってここのレジデンス棟に住んでるってホントですかぁ」

 モモが探るような眼差しを向けてくる。宗介は笑って首を横に振った。

「あぁ、それはデマだよ。僕が会社にこもりきりだから、そんな噂が流れたのかもね」

 嘘だった。モモの疑惑は本当で、宗介はオフィスのあるこのタワーのレジデンス棟に部屋を借りている。
 通勤時間なんて無駄でしかないし、賃貸規約違反だからやらないが、可能ならばオフィス内に自分の部屋をもうけたいくらいだった。

(あんまり噂が広まってるようなら、引っ越さないとなぁ。面倒だな……)

「働き過ぎもダメですよ〜。気分転換にモモとお食事っていうのはどうですか?実は来週の撮影内容に少し不安があって……」
「それは心配だね。すぐに店を手配するよ。フレンチ? 和食? どんな店がいいかな」
「きゃ〜やったぁ! 桂木社長とならどんなお店でも」
「広報担当の松野は優秀な男だから。なんでも相談してみて」

 宗介はにこやかな笑みでモモをシャットダウンした。
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