婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 法学部に進学し、在学中に司法試験を突破する。そして、弁護士になり三十前後には釣り合う家柄の相手と身を固める。
 誰に強要されたわけでもないのに、宗介は自分の人生はそうでなくてはならないと思い込んでいた。

 その思い込みを打ち砕き、敷かれたレールから飛び降りる勇気をくれたのが紅だった。

『宗くんは優しいから。周りの期待に応えなきゃって思っちゃうんだろうね』
『そう……かなぁ』
『そうだよ。でも……優しいだけの男になるのは、つまらないと思うな』

 大人びた瞳で、紅は宗介を見上げた。彼女は気がついたのだろう。宗介が飛び降りたがっていることに。そのうえで、発破をかけたのだ。本当にこのままでいいのか?と。

 振り返ってみれば、宗介が恋に落ちたのはこの瞬間だったのかも知れない。あの時の紅の顔は今も忘れられない。

「優しいだけの男にはなる気はないよ。紅が言ったんだから、覚悟してもらわなきゃな」

 仕事を早めに切り上げた宗介は紅の職場へと向かった。

 


 

 
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