あの~、恋ってどう始めるんでしたっけ?
「カンちゃ~ん、今日の仕事のあと、予定ある?」

昼休みも終わりかけた談話室。

同期の桃野律子が、私に声をかけてくる。

「ないけど・・・何かあるの?」

「今日の西都製薬(さいとせいやく)との飲み会、友梨佳(ゆりか)急に来れなくなっちゃって。カンちゃん、彼氏とかいないよね」

「いない、けど・・・」

飲み会みたいな場は、ハッキリ言って苦手だ。会社の忘年会さえ、理由を付けてパスしているのに。私は、アルコールが全く飲めない。

「じゃあ、ね、いいじゃん。そのカッコも中々可愛いよ」

うちの会社、新日本印刷株式会社は、大企業の割に自由な気風で制服もなくカジュアルな格好で出社オッケイだ。私は、今日は、ペールイエローのツインニットに緑系のフラワーモチーフのスカートをはいてきている。

「う・・・ん」

「カンちゃん、彼氏いない歴、10年だっけ」

「もう一生、彼氏なんて出来ないかも」

「そんなことないって。カンちゃんに足りないのは、出会いよ。・・・って訳で、5時30分にロッカー室でね」

律子は嬉々として、総務部へと戻っていった。

私、もう、恋の仕方なんか、忘れちゃったな。

恋はするものじゃない、落ちるものだ、と言うけれど、私に落ちる勇気なんか、あるんだろうか。
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