深海特急オクトパス3000
 

  死者の目。



その残像と動悸(どうき)合間(あいま)(ささや)く声が聞こえた。



  ─助けて─



それは空耳かと思うほどの小さな声。



  死霊の(ささや)き。



小さな人形の(よう)輪郭(りんかく)が浮かび上がる。


座席の下の影の中から()いずり出てくる、
小さなシルエット。


それは6歳前後の小さな少女の顔だった。



 君は・・・



僕はそうたずねたつもりで上手く言葉が出なかった。



『助けて・・・  』



僕は恐る恐る捕まれた足首の小さな手首を(つか)む。


とっても生きているとは思えないほどの冷たな手。


僕は思いきってその手を引き、
座席の下から少女を引っ張り出す。


そこから出てきたのは少女の残骸(ざんがい)


上半身だけで下半身のない小さな少女(なにか)


その狂気の残骸(ざんがい)を前に、
僕は腰を抜かし手を振り払い逃げ出しそうになる。



その瞬間、少女の絶望(ぜつぼう)に満ちた顔を見るまでは。



僕はすんでの所で心を落ち着けた。



『助けて・・・  』



再び(ささや)かれた小さな悲鳴を僕は飲み込んだ。



大丈夫(だいじょうぶ)?」



僕は少女を抱き寄せ座席の下から引っ張り出した。



上半身だけに見えた少女の体は、
ちゃんと五体満足で(そろ)っていた。


6才前後の少女は必死で僕の腕にしがみつき、
小さく震えていた。



僕は(ふたた)び少女にたずねた。



「なにがあったの?」


『わからない』

 
『ママ』



そう言って必死でしがみつく温もりはとても小さく。


僕はそんな小さな子供に(おび)えていた事を恥《は》じた。



「一緒にママを探そう」



僕はそう言うと彼女を抱き上げ、
死体を見せないよう少女の小さな頭を胸に押し当てて、
陰惨(いんさん)な死の(うたげ)残滓(ざんし)(ただよ)う車両の中を、
前方に向かい進んでいった。





 
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