私の執事には謎が多すぎる ー 其の一 妖の獲物になりました
足はヘトヘトだし、もつれて転びそうだ。
あの声に捕まってはいけない。
頑張って逃げろ。立ち止まるな。
挫けそうになったが自分を叱咤する。
また声が聞こえて恐怖で足が止まった。
『私からは逃げられないぞ。諦めてこっちに来い」
痙攣を起こしたかのようにブルブル震える足。
もう立っているのがやっとだ。
息も苦しくて、呼吸する度に胸がズキズキ痛む。
背筋がゾクッとするその声に聞き覚えがあったが、パニックになっていて思い出せない。
逃げなきゃ。
そう思うのに足はピクリとも動かない。
早く動いて。動いてよ!
脳に何度も命令を出しても、結果は同じだった。
『お前は美しき私の獲物』
不気味な声が私を追い詰め、身動きが取れなくなる。
黒い渦が私を飲み込んで……。
「尊〜!」
声を限りに叫んだその刹那、誰かが私の手を掴んだ。
「撫子!撫子!」
その声は私が信頼している執事の声。
目を開けると、彼が私の手を握っていた。
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