耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[1]


「お、……美味しい!」

美寧は口に手を当て、茶色がかった大きな瞳を見開いた。

「全然臭みがないし、溶けるみたいになくなっちゃった……」

口の中のものが無くなるのをきちんと待ってから、更にそう呟いた美寧。

「この時期のカツオは“戻り鰹”と言って、夏のものよりも脂が乗っていますからね」

カウンターに並んで座る怜はそう言うと、もう一つの皿を美寧の方へ少しだけずらす。

「このこはだ(・・・)も、とても美味しいですよ」

怜に勧められて、美寧はこはだ(・・・)を一貫口に入れた。

「ほんとだ!すごく美味しい!!」

目を輝かせた美寧に、怜は目を細め口元をゆるませる。

美寧は久しぶりに味わう寿司に舌鼓を打っていた。

祖父と暮らしていた頃は、祖父行き付けの店によく行っていたが、父の家に戻ってからは寿司を食べた記憶はない。最後に食べたのがいつのなのかまったく思い出せない。

あの頃の美寧にとって、食事を取るは苦行のようなものだった。普通の食事ですら気分が悪くなることもあったので、ましてや生魚を食べたいとも思えなかった。


久しぶりに食べるお寿司がこんなに美味しいなんて———

美寧は前と全く違う、そして祖父と暮らしていた頃に戻った自分が信じられなくもあり嬉しくもある。

それもこれもすべて怜のおかげ。
そう思いながら隣をじっと見ると、視線に気付いた怜が美寧の方を見る。
目が合ったことが嬉しくて、美寧はにこりと微笑んだ。


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