オフィスラブはじまってました
「……やろうか」
とかなり凝視してしまっていたのか、柚月が訊いてくる。

「えっ? いえ、いいですっ。
 すみませんっ」
とひなとは思わず乗り出してしまっていた身を引いて、断った。

「スプーン、もう一本、いる?」
と辰子は言いかけ、

「いや、やっぱり、柚月くんに、食べさせてもらった方がいいかー」
と言って、カウンターの向こうで笑っている。

「……いや、辰子さん。
 スプーンください」
と言って、柚月はスプーンをとりにいった。

 ほら、食べろ、とそのスプーンをくれる。

「い、いえいえ。
 そんな、申し訳ない」
と断ったが、

「味見してみろ。
 美味いぞ」
と柚月が言い、辰子が、

「そうよー。
 柚月くんはね、子どもの頃から、うちの焼き飯、好きなのよ。

 お父さんによく連れてこられてたわ。

 家では出てこないような素朴な味が気に入ってるのかしらね、お父さん」
と言って、笑っていた。

「遠慮せず、食べろ。
 食べなかったら、ああ、食べとけばよかったって、繰り返し夢に出てくるかもしれないぞ」

「いや~、繰り返し出てくるのは、徳川慶喜ですよ」
と言って、

「何故だ……」
と言われてしまったが。



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