極上イケオジCEOのいちゃあま溺愛教育 ~クールで一途な彼の甘い独占欲~【完結】

13.ハローワークにて―― これは、まずい事態でしょうか…?

 訊くと何人かの社員が、ハローワークで失業保険が貰えなかったらしい。

【だから、ちひろも早く行って調べたほうがいいって!】

【わかりました。明日行ってみます】

 そう返し、「ありがとう」という可愛らしいスタンプを送った。

「貰えない社員……? どういう意味だろ?」

 なんだかしっくりこないまま、月曜日にハローワークへ行くと決めた。


 §§§


 初めてのハローワーク――


 朝一番に入ったつもりだが、すでにひとでごった返していた。
 どこに行けばいいのかわからず、とりあえず案内板の前に立つ。
 そのとき、鼻腔に覚えのある香りが漂ってきた。

(オリエンタルでスパイシーで、甘くセクシーな香り! もしかして、あのときのおじさま……!?)

 慌てて振り向くと、そこに誰もいなかった。
 ウィン……と自動ドアの開く音がして、そちらへと視線を向ける。

 背の高い男性の後ろ姿を捕らえたが、Tシャツにデニム姿という赤い薔薇のおじさまとは似ても似つかないスタイルで、ちひろは落胆してしまう。

「こんなところに、おじさまがいるわけがないか……」

 それでも未練がましくその男性の横顔まで確認するが、サングラスをかけていてよくわからなかった。
 そもそも、ちひろはあの日とても酔っていたので、イケオジの顔を明瞭には覚えていなかった。

 ただ服装や雰囲気は覚えている。上等なスーツに、バーでのこなれた感じ。
 すごく格好良くて、思わず話しかけてしまったのだ。

『ちひろ……』

 少し鼻にかかった甘くて低い声を思い出しただけで、体温が上がってしまう。

(やだ……似た香りで、おじさまのことを思い出しちゃうなんて……もう、私ったら)

 そんな場合じゃないと、慌てて意識をもとに戻す。

「……それにしても、まずどこに行けばいいのかな。よくわからないわ」

 キョロキョロしていると、受付らしき男性が自動ドアの向こう側に立っているのが見えた。
 五人ほど列をつくっているので、ちひろは最後尾に並んでみる。
 やっとちひろの順番がくると、受付の男性が開口一番こう言った。

「離職票をご提出ください」

 首を傾げるちひろに、男性が硬質的な目を向けてくる。

「まだ届いていないのですか? 会社を辞められてから何日経過しましたか?」

「二週間くらいです」

「おかしいですね。もう届いてもいい頃なのに」

「会社は計画倒産みたいで、社長は夜逃げしました。それでも離職票ってきますか?」

 受付の男性は目を眇めると、慌ててちひろを別室へと案内した。
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