誰よりも不遜で、臆病な君に。

 それでも、ここ一年でぐっと女性らしくはなった。
 体は以前よりも丸みを帯び、括れるところは括れてきている。

 今初めて彼女を見た人間ならば、美しい王太子妃だと声を揃えて言うかもしれない。
 一年前は、ずいぶん幼い少女を……と『アイザック王子ロリコン説』まで上がったことを思えば、喜ばしい変化であると言えよう。

「まだまだナサニエル陛下もカイラ様もお元気ですものね。アイザック様も帝王学を学ぶのに忙しいでしょうし、いいんじゃないの。子どもが生まれたら、こうしてのんびりお茶会もできないし」

「えへへ。そうですね。クロエさんこそ、変わりはないですか? オードリーさんやクリスさんも元気です?」

「ええ。クリスはいろんなお菓子を作ってくれるわよ。レイモンドからもらっていない?」

 現在、レイモンドは城付きの料理人である。レイモンド自身は城に住み込んでいて、週に一度、オードリーやクリスが厄介になっているイートン伯爵邸へ帰るという出稼ぎ状態だ。

「そういえば、たまにお茶の時間に焼き菓子が付くことがありますね。あれがそうだったのかな」

「おそらくそうね。クリスはレイモンドが帰ってくるとすごく張り切って大量にお菓子を作るんだもの」

 その日は、伯爵邸に甘い匂いが充満しているのですぐわかる。
 一生懸命小さな手を動かしている様子は、見ていてかわいらしい。

 クロエは菓子作りには興味がないが、クリスが作っているところを見ているのは好きなのである。

「それはいいんだけど。クリスが可愛すぎてお母様がうるさくてねぇ」

 クロエの母であるケイティは、子ども好きで愛情深い。
 クリスという幼い子供が屋敷にいることにより、孫を抱きたい欲が再燃しているらしく、毎日結婚しろとうるさいのだ。

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