年下ピアニストの蜜愛エチュード
 アンジェロは千晶を見つめながら答えを待っている。どうやら本気で誘ってくれているらしい。

(パーティーって、あのアンジェロ・デルツィーノと一緒に? しかも彼の演奏つき? だけど……どうして私?)

 アンジェロのことがますますわからなくなった。

 健診の時はあんなに不機嫌だったし、今日も偶然顔を合わせただけなのだ。しかも彼と順はすっかり仲よくなったが、千晶とはほとんど話していない。それなのに――。

 千晶は驚き過ぎて声も出なかったが、代わりに反応したのが順だった。

「パーティー? いいよ!」

「ち、ちょっと順!」

 よく考えれば、幼い順を連れて夜のパーティーに出られるわけがない。信じられないくらい魅力的な誘いだが、千晶は急いでかぶりを振った。

「せっかくですけど……この子がいるので、パーティーには出られません」

「ああ、それなら心配いりません」

 今度は啓一が割り込んできた。

「うちにも双子の娘がいるし、他にもお子様連れのお客様がいらっしゃるので、シッターさんを頼んであるんです。おっと、噂をすれば――」

 その時、楽しそうに笑いながら二人の女の子が階段を駆け上がってきた。

「アンジェロ!」

 順より二つくらい年上だろうか。よく似た女の子たちはアンジェロに飛びつきかけたが、千晶と順に気づいて、ピョコンと頭を下げた。

「こんにちは!」

「わあ、あなた誰? 私はさくら、この子はすみれよ」

 順はおとなしくて、見た目もかわいらしい。そんな彼が気に入ったらしく、二人はさっそく両側から挟み込むように話しかけ始めた。

「ね、あっちで一緒に遊ぼう」

「今晩ここでパーティーがあるのよ。君も来る?」

「うん、行く!」

 盛り上がる子どもたちを見て、啓一が「決まりだな」と笑った。

「いいですか、三嶋さん?」

 アンジェロが再び問いかけてきたが、こうなっては断ることなどできそうもない。

「はい、よろしくお願いします」

「……よかった」

 アンジェロは少し頬を赤らめ、安心したように笑った。

(でも、どうして?)

 なぜ彼は自分を誘ってくれたのだろう? それに、なぜこんなにうれしそうなのだろう?

 あまりに予想外の展開に困惑しながら、千晶は小さくため息をついた。
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