年下ピアニストの蜜愛エチュード
 そんなふうに励まされたものの、試着室を出る時は少し足が震えてしまった。

 カッティングがいいのか、確かに身体のラインがきれいに見えるワンピースだと思う。とはいえデザインや着心地が最高でも、それが似合うかどうかはまた別の問題だ。

 千晶にはこんな高級な服を着こなす自信はなかった。

 ところが――。

「ベリッシマ!」

 外で待っていたアンジェロは、満面の笑みで千晶を迎えてくれた。

「思ったとおりだ。すごく、すごくきれいです、三嶋さん!」

 まるで子どものように目を輝かせ、満足そうに頷いている。素直過ぎる称賛に、千晶の頬が熱くなった。

 男性からこれほど手放しで褒められるのは、初めての経験だった。

 アンジェロは半分外国人で、ヨーロッパ育ちだ。これくらいのことは気軽に口にするだろうとわかってはいたが、やはり心が躍った。

「……本当に?」

 気がつけば、礼を言うのも忘れてアンジェロに問い返していた。

「似合っていますか、本当に?」

「ええ、とても似合っていますよ」

 アンジェロは急に真顔になると、一歩進み出て、千晶の唇に口づけた。

(えっ?)

 ほんの一秒にも満たない、ただ唇を合わせるだけの触れ合い。それでもキスはキスだ。

 千晶は声も出せず、ただアンジェロを見つめ返した。もちろんファーストキスではないものの、固まったまま動けない。

「言ったでしょ? 三嶋さんはきれいですよ、キスしたくなるくらい」

 一方のアンジェロは千晶が納得したと思ったのか、微笑みながら大きく頷いた。
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