可愛くないから、キミがいい【完】



「旭君だ、」

「今日も、かっこいいよね」

「朝いつも眠たそうだよね、眠そうな顔もかっこいいって何事だろ。絶対に付き合えたら、手放さないよね」



ひそひそ話にしては大きな声だ。

どうせ、私にわざと聞かせているのだろう。


可愛くない女の子たち。根性まで腐っているようだけど、どこに自分の価値を見出して生きているんだろうか。


“旭くん”

その名前には、どうしても反応してしまう。無意識に張ってしまっていたレーダーが、彼のことを察知する。




旭くん。

―――旭 千草。


私のことを振った元彼の名前だ。

私は彼のことをちぃ君って可愛く呼んでいた。


私が振ったことにしているから、女の子たちのわざとらしいひそひそ話は、どうしてこんな男の子振ったのという、非難のつもりなのだろう。

本当のことは、私と彼と彼が私のことを振って付き合った女だけが知っている。


だんだんと彼が近づいてくる。

自分の教室へいくのだろう。


ちょっとつっている切れ長の目が、真っ直ぐと前だけを見ている。

本当に整った顔をしているし、スタイルもとてもいい。


心臓が煩くなってしまうことが、嫌だ。付き合ってた頃の思い出なんて、ほとんど濁っている。

すれ違う寸前で、ちら、と顔をうかがったけれど、目があう気配すらしなかった。


傷つかない。

傷ついてなんて、ない。


だってわたしのほうが、今、彼が付き合っている女の子の何倍も,何十倍も、可愛いのだから。


振られたのは、
絶対に、私のせいじゃない。





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