先生がいてくれるなら②【完】

腕を掴んでいた先生の手が私の腰にそっと回されて、私が先生を見上げると、先生は何とも言えない表情で前をじっと見据えていた。



──先生もとても緊張したんだろうな。


私なんかを連れてのお食事会になってしまって、私の方がなんだか申し訳ない気持ちになる。



教授と先生が直接言葉を交わしたのは、私が知っている限りでは、ほんのひと言ふた言。


その内容も、簡単な家族間の挨拶みたいなものだけだった。


それでもきっと、とても緊張したんだと思う。



──お母様と広夢さんに久しぶりに会えて、どんな話をしたんだろう。


楽しかったかな。


お母様と広夢さんは久しぶりに先生に会えてとても嬉しそうだった。


先生も同じだと良いな、と思う。



車が停められている場所まで歩いている間、先生はずっと無言だった。




私は、今日のこの会食が、藤野家にとってとても良い時間であってくれたのなら良いけれど、と思うばかりだ────。





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