先生がいてくれるなら②【完】

3学期が始まった。



大晦日前のあの日──。


別れを切り出した私を、先生はとても冷たい目で見つめていた。


先生の冷え切ったブルーグレーの瞳を思い出すと、今でも心が、とても、とても痛い。


だけど私にはもう選択肢なんか、無かったんだ。


あれが、最悪で、最善の選択。


そう信じるしか、私にはもう残されてなかった────。




3学期の始業式の日、私はいつも通り早めに登校し、部室の掃除を始めた。


先生とは別れたけれど、数研を辞めたりはしない。


先生と私は、ただの教師と生徒に戻っただけ。


先生は数学を教えて数研の顧問をし、私は授業を受けて数研の部員として必要最低限の活動をする。




私は部室の床を掃き清め、机を丁寧に拭き上げる。


机を拭いている最中、開け放した部室の入り口に、ふと人の気配を感じて……私は振り返りたくなるのを懸命に堪えた。


きっと気配を感じたその場所には、藤野先生が驚いた表情で立っているに違いない。


いや、驚いた表情ではなく呆れた表情かも知れないし、嫌悪や憎悪の表情かも知れない。


いずれにしても、いつも通り掃除をしている私に対して恐らく嫌な感情を抱いたに違いない。




一度拭き終えたはずの長机を、私はもう一度時間を掛けて丁寧に拭く。



先生が立ち去るまでの時間がとてもとても長く感じられ、入り口から気配が消えて準備室の扉が閉まる音と共に私は息を吐いて床にしゃがみ込んで、グッと涙を堪えた。



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