先生がいてくれるなら②【完】

それは、5月の大型連休が明けて少し経った頃のこと──。



俺の携帯電話が、鬱陶しいほどにブルブルと震え続けている。


うるせぇな、こっちはいま忙しいんだ。


液晶画面に表示されている電話の主に、心の中で悪態を吐く。



何十回とコールしても全く諦める気配の無い電話の主は、俺の前の職場である私立高校教員時代の同期で元同僚の、岩崎 湊人(いわさき みなと)だ。



岩崎という男は、『彼女は出来たか』とか『好きな子はどんな子だ』とか色々聞き出そうとしたり、挙げ句の果てに去年のうちの学校の文化祭に半ば無理矢理押しかけて立花を観察して帰ったりと、俺にとってはなかなかに迷惑な男なのだ。


その後は俺の生存を確認するためのメッセージを時々送って来るぐらいだったが……。



これだけ執拗に鳴らすのだから、俺に何か用事があるのだろう。


分かってはいるが、正直、コイツの話に付き合うとめんどくさい事になりそうだから放置したいのだが……コールが途切れる様子は無い。



俺は大きなため息を一つ吐いて、しぶしぶ電話に出た。


「なんの用だ」


早く用件を言え、そしてすぐに終わらせて欲しい。


『はぁ、やっと出た……』


「いいから、早く用件を言ってくれ」


ホントに忙しいんだよこっちは。


『はいはい、相変わらずご挨拶ですねぇ。そうだお前さぁ、彼女……立花さんと、どうなってんの?』


「は? んなもん、とっくに別れたわ」


『へ!? 待て待て、付き合ったって報告、俺聞いてないけど!』


「……言ってねぇもん」


何なんだよ、突然かけてきて、こんなどーでも良い話。


「こっちは忙しいんだよ。用事が無いならかけて来んな。切るぞ!」


『あーっ、待て待て! 別れた!? なんで!?』


「どうでも良いだろそんな事!? 俺は今年度から担任持ってて忙しいんだ、ホントに切るぞ!」


『分かった分かった! あのさ、お前、最近あいつの話、何か聞いた? 高峰の話……』


……は?


た、か、みね……?


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